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「女たちが守る寺」を朝日新聞に掲載していただきました

朝日新聞
2009-02-03
奈良・光明寺住職三浦明利さん
光明寺
女たちが守る寺
『en』という物語大切に
エッセイスト中田紀子

幼い頃から住職になるのが夢だった。しかし、その日は予定よりずっと早く、突然にやってきた。「最初は辛いなって、思いもあったのですが、門徒さんはじめ、みなさんが暖かく見守ってくださって。住職としてやっていけるようにたててくださった。だから、すぐに楽くなって。今、行ってきたお参りもお出かけ気分で」

住職になって半年と少し。金襴の和袈裟を首に掛け、黒衣に身を包んだ小柄な三浦明利さんはほほ笑んだ。アップの髪に前髪を下ろし、くりくりとして大きな瞳が愛らしい、いま風の25歳だ。

お寺生まれの一人娘は4歳でピアノを習い始め、10年後ギターを手にする。高校でバンドに参加、作詞作曲と音楽に傾倒していく。大学時代にはバンドを結成。数々の賞に輝き、ソロで弾き語りを始める。

「私、ギタリストだったのです。エレキでギュンギュンいわしてる、は~い」。CDも出し、レコーディングも全部終わってこれからだという時だった。が、昨年、寺に専念するため、4年間活動したバンドグループを脱退する。

儀式や法要で僧の唱える声明は、日本の音楽のルーツといわれるように、寺と音楽とのかかわりは深い。
明利住職は、音楽活動をする一方で、大学、大学院と、仏教音楽の歴史的意義や、今後の可能性を仏教学、真宗学に照らして真面目に研究してきた。「私の中では音楽は切り離せるものではありません」バンドは脱退したが、それまでの経験を生かして、老人ホームなどの施設や寺などで、自分で作詞作曲した歌の弾き語りを続けている。

聞いてみたくて歌をお願いした。
「え~っ」と言いながらもすぐに、仏教讃歌を歌い始めた。さすが発声が違う。おなかの底から出る声は心地よく、まるで乾いたスポンジに水のごとく、体に沁みていく。
「私、今まで舞台に立って一方的にしか歌ってこなかったような気がします。ポップスや、同世代に共感できる愛の歌や漫然とした平和の歌。それなりに意味はあるのですが、これからはみんなが一緒に楽しめるような曲を作っていきたい」
緩和ケア施設での一期一会の出会いから演奏者も参加者だ、ということを学び、距離が縮まったという。
光明寺は人との縁を大事にしている。毎月の講演会や法話、コーラス。そして親睦会などの行事が多いのはそれを物語るが、それには本堂が使われる。

内陣と外陣からなる本堂の外陣が広くなっているのは、教えを聞きつつ、ゆっくりとくつろげる場であるためという。そして、内陣中央に立つご本尊の阿弥陀如来がやや前傾姿勢をとり、一歩踏み出しているのは、一瞬でも早く衆生を救うため、仏から歩み寄る姿だとか。
住職もまた、その姿のように、人との縁を大切にして歩み寄る。
「・・・よろこび悲しみあふれ出る思いは誰かに伝えるためにあるつながってみんなで作り出すつながって始まる『en』という物語・・・」
明利住職が作詞作曲した全国真宗青年の集いのテーマソング『en(縁)』にあるように。